さよならまで、もうすこしだけ

虚実綯い交ぜの句日記・歌日記

店じまい

店じまい シャッター下ろす手にためらい

雨だれ

雨だれが 穴へと吸ひ込まれてゆく 、 、、、 、、 、、 。

アボカドの種

充血せる眼玉が我を睨みをり ゴミ受けの中のアボカドの種子(たね)

寒柝

寒柝(かんたく)も「火の用心」の声も濡れ

寒鴉

寒鴉 痰の絡まる声で鳴き

小島さん

いもしない小島さんだけど<コトリ>って呼んでもいいなら仲良くなれそう

値上げ

赤字出りゃなんでん関電値上げして

雪催い

雪もよひ 法連草の顔も痩せ

虫の死

名も知らぬ眇たる虫の圧死せる『現代秀歌』百二十九頁

ポインセチア

山間(やまあい)にポインセチアの姿見ず

大根洗い

大根(だいこ)洗ひ 氷の芯まで洗ひけり

こたつ猫

挨拶もなく膝に乗る炬燵猫

寒夕焼

寒夕焼(かんゆやけ) 尿(しと)より上る湯気照らす

静電気

薄暗き玄関で脱ぐフリースにハンガー触れて火花が散りぬ

踏みしだく

長靴に踏みしだかれ鳴く雪一面

ハ行

ハ行なら身近にあります 歯・皮膚・屁・頬

冬田

登校に冬田横切る少女かな

討ち入り

元禄の巷間に流行りしと聞く判官贔屓も今は廃れぬ

万年筆

万年筆で反故紙に落書きなにか仔細があるじゃなし

おでん

鄙宿の土鍋の底の焦げ竹輪

寝巻

芭蕉忌や 寝間着の袖にもほつれあり

この辻より何処を向きても冬茜

掃除

心急(こころぜ)く銀杏の落ち葉に竹箒

いざたまへ 病牀の友が身を起こし

廊下

斎場の廊下に響(とよ)む子らの声

夜長

長篇の警察小説読み継ぎて ぬばたまの夜にも雪は降りつつ

青磁

依水園 人疎らなるショウケースの青磁象嵌菊花紋盒子(せいじぞうがんきっかもんごうす)

大根二百本

宿坊の註文請けて霜月の身薄き大根二百本も引き

もぐら穴

雪は止み 土竜の掘りし穴埋(うづ)む

初雪

ポケットの奥より出でし濡れたメモ 流線型の冬は疾走れり