俳句
寒柝(かんたく)も「火の用心」の声も濡れ
寒鴉 痰の絡まる声で鳴き
雪もよひ 法連草の顔も痩せ
山間(やまあい)にポインセチアの姿見ず
大根(だいこ)洗ひ 氷の芯まで洗ひけり
挨拶もなく膝に乗る炬燵猫
寒夕焼(かんゆやけ) 尿(しと)より上る湯気照らす
長靴に踏みしだかれ鳴く雪一面
登校に冬田横切る少女かな
鄙宿の土鍋の底の焦げ竹輪
芭蕉忌や 寝間着の袖にもほつれあり
この辻より何処を向きても冬茜
心急(こころぜ)く銀杏の落ち葉に竹箒
いざたまへ 病牀の友が身を起こし
斎場の廊下に響(とよ)む子らの声
いつか見た薄明の夢 夜想曲(ノクターン)
年ごとに知る人の減り いてふ葉や
町内に知らぬ字(あざ)あり 秋高し
秋曇り 痩せ大根を試し引き
雨降りて明くる日 雲の山登り
蜘蛛の糸で編みしセイタカアワダチソウ
恙なき台風一過の朝である
秋桜も身を投げ出すや 風強し
稗(ひえ)よく燃ゆ 五時のチャイムの割れ響き
夕闇の田に藁焼く火 浮かび上ぐ
三日月に顔あるやうに見ゆる夜
野分去る 缶詰の秋刀魚 昼餉(ひる)に喰ひ
稲刈り前 畦に屹立せる雉の
彼岸過ぎて投げ売りされる仏花かな
漸(やうや)うと赤の解(ほど)ける彼岸花