秋
ブランコのそばにサンダルひとつあり 夕焼けのごとき朝焼けである
年ごとに知る人の減り いてふ葉や
町内に知らぬ字(あざ)あり 秋高し
秋曇り 痩せ大根を試し引き
秋雨に身を縮めたる白菜の青き外葉に白き火燃えけむ
雨降りて明くる日 雲の山登り
蜘蛛の糸で編みしセイタカアワダチソウ
恙なき台風一過の朝である
秋桜も身を投げ出すや 風強し
匂い立つすりぬかをくれし父と子はよく似てともに言(こと)少ななり
稗(ひえ)よく燃ゆ 五時のチャイムの割れ響き
夕闇の田に藁焼く火 浮かび上ぐ
野分去る 缶詰の秋刀魚 昼餉(ひる)に喰ひ
稲刈り前 畦に屹立せる雉の
彼岸過ぎて投げ売りされる仏花かな
漸(やうや)うと赤の解(ほど)ける彼岸花
空の鱗ひとつ剥がして手紙書き
朝霧や キャベツ畑にカラス羽根
不意打ちをして澄まし顔 彼岸花
屋根瓦の燃え崩れし跡 秋高し
敬老の日というよりは投資の日
蛇に遭ひ 様悪(さまあ)しく跳ぶ蛙かな
知り合ひの事故に遭ひし日 寝待ち月
月のもと実家に帰るというきみと線香花火さよならの代わり
名月でなくても月は月であり
舌火傷す 去年(こぞ)の秋刀魚は高かりし
陽や風に恵まれざりしコスモスに少し優しい雨降ればいい
黒猪(くろじし)や 罠より逃げるその迅(はや)き
夏去りぬ トマトの色づき遠くなり
友不在 畑の鶏頭を眺め去る