俳句
空の鱗ひとつ剥がして手紙書き
朝霧や キャベツ畑にカラス羽根
不意打ちをして澄まし顔 彼岸花
屋根瓦の燃え崩れし跡 秋高し
蛇に遭ひ 様悪(さまあ)しく跳ぶ蛙かな
知り合ひの事故に遭ひし日 寝待ち月
舌火傷す 去年(こぞ)の秋刀魚は高かりし
黒猪(くろじし)や 罠より逃げるその迅(はや)き
心ゆる ふたとせ語らぬひとの見え
夏去りぬ トマトの色づき遠くなり
友不在 畑の鶏頭を眺め去る
さりながら異国の文字の美しき
早熟の子らの掌にある水泳帽
メマトイの纏(まつ)はる八朔 不意の客
川遊び 西班牙帰りの者も居り
ボサノヴァでうつつに舫(もや)はる処暑の昼
百日紅 花火のごとく花飛ばし
これまでをよく生きてきたな蝦蟇(がまがえる)
雲の峰 まだ歌えるかわが校歌
蚊遣りの香 眠りに泥(なづ)む身の底に
迎え火や 猫らの先祖も幾柱(いくはしら)
顎鬚を釦(ボタン)に挟まれ 盆支度
颱風が向日葵踏み圧し北上す
歳時記の「夏」を収めて秋立てり
束の間の静寂(しじま)のあとのすずろごと
田には風 飆(ひょう)と緑の波立たす
溽暑なり 庭に戯(じゃ)れつく二羽の蝶
昼寝多き懈怠(けたい)の夏よ 万事愛(は)し
日曜日 野宿ついでに鐘鳴らす
土曜日はダリの模写する偽絵描き